給料明細書を入れた封筒に、従業員の皆さんの名前を手書きするたびに、父親の曲がってしまった指を思い出す。
板金職人の父は中学校を卒業してすぐに横浜の親方の家で住み込みで働いた。
人の家でご飯を食べさせてもらう。
それは、それは辛い日々だったに違いない。
しかし、私は、大酒飲みで気分次第に怒鳴り散らす父が大嫌いだった。
だが、請求書や領収書を書いている父親はとても荘厳で違う人物のようだった。なぜか、設計図も書いていたように記憶している。
彼は万年筆にとてもこだわる人だった。
字も品があり、とても上手かった。
苦しい下積み時代を経て独り立ちし、収入を得ていることをとても誇りに感じていたのであろう。
酷使した指の何本かは信じられないほど曲がってしまっている。
そんな指を巧みに操り計算機を打っていたのかと思うと泣けてくるのです。
by 薫子